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勢力均衡(balance of power)とは国際情勢の安定性、特に戦争のリスクを各々の勢力の相対的優劣によって説明する理論である。その理論に依拠して実施する対外政策を指して用いる場合もある。
ハンス・モーゲンソー、ケネス・ウォルツなど、国際政治学においてリアリズムに区分される理論的研究の中で受け継がれてきた概念だが、その理論の内容については諸説ある。例えば、国際社会が多極化した方が勢力均衡が安定して戦争のリスクは低下するか否か、という論点がある。古典的リアリズムの研究で知られるモーゲンソーの勢力均衡理論によれば、国際社会が多極化するほど、実現可能な同盟の組み合わせが増加し、どの国が戦争を仕掛けようとしても、直ちに対抗されるため、勢力均衡が実現しやすくなると考えられる。しかし、構造的リアリズムを唱えたウォルツの勢力均衡理論では、国際社会の多極化が進むと将来の展開を予測しずらくなり、かえって勢力均衡の不安定化を招く恐れがあると説明した。
これらの議論の当否については、戦争のリスクを判断する際に、戦争の発生確率の上昇をリスクとして捉えるのか、それとも戦争が勃発した際の人的、物的被害の拡大をリスクとして捉えるかによって左右される。また、各国の能力をどのような指標で比較するかによっても妥当性が変化する。勢力均衡理論をより精緻化するための研究努力は続いており、例えばゲーム理論的分析を応用する研究や(Niou et al. 1989)、国内の政治的不和によって勢力均衡が不安定になる可能性を指摘する研究などが報告されている(Schweller 2006)。