射撃号令

射撃号令

射撃号令(fire command)とは、指揮官が射撃を指示し、統制し、また連携させるために用いる号令である(射撃統制も参照)。誰が射撃するのか、射撃の目標は何か、どのような方法で射撃を行うのか、などの事項を明確化することができる。

射撃号令は時代や地域だけでなく、装備によっても異なる。ここでは米陸軍の歩兵小隊で使用される2007年版の野戦教範に沿って射撃号令の基本的な構成要素の説明を行う。

  • 注意喚起(Alert)発令者が発する号令を射手が受令できるように、名前、番号などを呼称して行う。例えば分隊長が自分の指揮を受ける分隊員に対して「分隊」と注意喚起することもあれば、個別に氏名で注意喚起を行うこともある。
  • 目標位置(Location)射手に対して目標の位置を指し示す。この際に使用できる方法はいくつかあるが、最も単純な方法は「右前方」、「左後方」などのように大まかな地区に区分して方向を示す方法である。それ以外にも時計法(Clock Method)を用いて「12時(の方向)」と指定する場合や、「山頂の方向」のように基準点となる地形や地物を利用する場合もある。どのような要領を用いるかは状況によって指揮官が判断する。
  • 目標説明(Target description)発令者は射手に射撃の目標を付与する。目標説明では射撃を加える目標の種類や状態が分かるように述べることが重要であり、例えば「接近中の散兵」、「堆土上の機関銃」、「右に移動している車列の先頭戦車」などと述べる。米軍では目標説明に用いる呼称の基準として、戦車か戦車のような車両は「戦車(Tank)」、歩兵戦闘車(IFV)や装甲兵員輸送車(APC)は「PC」、徒歩で移動する歩兵は「部隊(Troops)」、ヘリコプター全般は「ヘリ(Chopper)」と定めている。
  • 交戦方法(Method of engagement)発令者は受令者が目標に対してどのような方法で射撃を行うべきかを指示する。例えば、「単射」、「6発連射」などと号令する。射手ごとに射弾の弾着を観測しようとするなら、「右より射て」と号令することもできる。
  • 弾薬(Ammunition)もし受令者が複数種の弾薬を持っているなら、どの弾薬を使用すべきかを示す。
  • 実施(Execution)発令者は目標が敵であることを再確認した上で、受令者に射撃を実施させる。直ちに実施する場合は「射て(Fire)」と号令すればよいが、射撃を開始する時機を統制したい場合は「指命(At my command)」と号令する。この場合、射手は直ちに発射できるように用意を完了して指揮官の号令を待つので、指揮官は改めて「射て」と号令する。射撃を中止したい場合、発令者は「射ち方待て(Hold your fire)」と号令する。この号令を受けた射手は射撃を一時的に中止するが、いつでも再開できるように照準をそのままに保つ。「射ち方止め(Cease fire)」は射撃を完全に中止するための号令であり、これを受けた射手は照準を外して事後の命令を待つ(FM 3-21.8: 2-22)。

射撃号令はその時々の状況に応じた形式、内容で発せられなければならず、正確かつ簡潔であることが求められる。射撃修正を行うなら、「訂正(Correction)」と唱えてから射撃号令を出し直す。

また、射撃号令の途中では射手が確認を行うこともある。例えば、指揮官が機関銃手(9番)に対して射撃号令を出すなら「9番、一本松の下、敵兵1、3発連射」などと射撃号令を出し、射手が「確認(Identified)」と返答してから「射て」と号令する。これだけでなく、指揮官の射撃号令に対して受令者がどのように反応すべきかについても一様ではなく、例えば車載の重機関銃を操作する射手に射撃号令を与える場合は、射手だけでなく運転手もそれに応じた操作を行わなければならない。例えば、指揮官が車両で移動中のところで「射手」と注意喚起すれば、運転手は急な加速や減速を控え、必要があれば車両を掩蔽できる場所に進出するといった操作が求められる場合がある。

射撃号令の適否は射手が射撃任務を完遂できるかどうかを左右する重要な問題である。指揮官はそれぞれの武器の特性や敵の状況などを総合的に判断し、どのような射撃号令なら最小限の弾薬の消費で最大限の戦果を上げることができるのかを考察する必要がある。

参考文献

  • U.S. Department of the Army. 2007. Field Manual 3-21.8: The Infantry Rifle Platoon and Squad, Washington, D.C.: U.S. Department of the Army.