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軍隊(armed forces)とは、戦争の遂行を目的とする武装した組織である。時代背景や地域特性によって成り立ちやあり方はそれぞれ異なるが、陸軍、海軍、空軍などの軍種に分かれている場合が多い。
軍隊とは、その目的は戦争の遂行であり、そのため独特な人員、武器、装備、施設などから構成される組織である。しかし、その具体的な機能や構造は、時代や地域によって違いがあることに留意しなければならない。
まず現代の国際法の観点から見れば、軍隊は戦争法において交戦者の資格を持っているかどうかで判断されており、それは(1)指揮系統を有すること、(2)識別のための固有の徽章を有すること、(3)公然と武器を携行すること、(4)戦争の法規と慣例を順守して行動すること、以上の4条件を満たすことによって認められる(陸戦規則第1条)。ただし、正規軍でなくても上記の4条件を満たしている民兵や義勇兵も同じ交戦者資格を認められるため、軍隊を研究する際には国境警備隊、海上警備隊、郷土防衛隊、治安維持隊などの準軍隊(paramilitary)についても考慮に入れる必要がある。
次に歴史的観点から見れば、軍隊はその時代の国家体制や社会構造と緊密な関係があり、相互に影響を及ぼしながら発達してきたことが分かっている。フランスの歴史学者カステランは著作『軍隊の歴史』において国王軍、国民軍、職業軍、国民総武装の4期の分類を示した。このような視点から軍隊の歴史を捉えることも無意味ではないが、実際に調査を進める上では問題が多い。軍隊は単系的に発達するものではなく、それぞれの時代や地域の戦争の様相、あるいは国家の体制に応じて多系的に発達するものだと理解した方が妥当である。
社会学者アンジェイエフスキーは世界各国の軍隊の歴史を調査し、軍事参与率(military participation rate)という指標を使いながら軍隊の歴史を分析した。これは全国民に対して軍隊構成員の割合を示したものであり、武器の変化や戦争の激化などによって軍事参与率が上昇すると、国家体制の民主化、社会的不平等の縮小が進むと考えられている。軍事参与率の増減はその国の政治史、経済史、社会史、軍事史と関連して変動する可能性があり、それぞれの時代と地域に固有の軍制が作り出される。
軍隊の歴史は国家の歴史と同じほど古く、文字による記録が可能になる以前から存在していたものと推測される。職業軍人として軍務に就く人々はわずかであり、古代の軍隊は特権的階級だけが軍務に就くことができる場合が多かった。例えば古代ギリシアのスパルタは多数の奴隷を労働に従事させ、奴隷を使用する市民だけが軍務に就いていた。同じく古代ギリシアのアテナイでは傭兵や奴隷兵を使うことがあったが、やはり軍務は市民の特権だった。同じことはローマについても当てはまる。しかし、ローマの場合は共和政から帝政へと移行する過程で外国人傭兵への依存を深め、ローマ人の割合が減少したことが指摘されている。
中世ヨーロッパの社会では奴隷制から封建制へ移行したことが影響し、君主から土地を与えられる見返りとして軍務に就いた騎士が軍隊の中核を担った。騎士は乗馬を含む戦闘技術に習熟し、当時の戦場で大きな戦闘力を発揮した。しかし、15世紀に戦場で火器の使用が戦場で普及するにつれて、その優位性は次第に失われていった。近世のヨーロッパでは歩兵と砲兵が戦場で台頭し、騎士団の地位を脅かし始めたため、一部の騎士は傭兵に身を落として戦地を渡り歩くようになった。傭兵の使用は近世のヨーロッパ諸国で普及したが、ニッコロ・マキアヴェリが指摘したように、軍隊としての信頼性が乏しく、自国民で組織された軍隊の創設が求められた。
ヨーロッパ諸国の中でいち早く常備軍の確立に着手したのはフランスだった。フランスは封建的貴族階級に対して王権を強化するため、軍隊の近代化を積極的に推し進めていた。しかし、依然として軍隊の上層部を占める将校は貴族階級の出身者で占められ、多数の傭兵も含まれていたため、軍事的能率が最大限に追及されていたわけではなかった。そのため、1789年のフランス革命によってフランス軍から貴族階級が一掃され、カルノーによって一般徴兵制が採用されたことは、軍隊の近代化にとって画期的な出来事だった。ナポレオンはそのマンパワーを駆使し、敵の殲滅を追求する大胆な戦略、戦術を実践し、大きな戦果を上げた。フランスに対抗するため、ヨーロッパ列強の軍隊は大規模な改革を強いられたが、この動きは特にプロイセンで強く見られた。
1808年8月6日の法令によってプロイセンでは将校の階級が貴族以外にも開放されることになり、また大尉以上に昇進する際に試験を課す合理的な人事制度も確立された。さらに幕僚制度の近代化も進み、1810年に設立された陸軍大学校で教育された人員を幕僚として配置することで、軍隊の専門性は大幅に向上した。このような改革の成果によって19世紀のプロイセン軍は世界で最も先進的な軍隊へ成長し、クラウゼヴィッツ、モルトケ、ゴルツなど、実務と研究の両面で優秀な軍人を輩出した。普仏戦争でプロイセンがフランスを破ったことにより、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、列強諸国はプロイセン軍の制度を参考にして改革を進めた。
第一次世界大戦、第二次世界大戦では多数の国民が動員され、軍隊での勤務を経験した。しかし、第二次世界大戦が終結してから先進国では徴兵制から志願制への移行の動きが見られる。核時代においては総力戦が起こる可能性は低下しており、より限定的、小規模な紛争に対処する必要が強まっている。武器や装備の発達に伴って、教育の内容はより専門化しているが、どの国でも優秀な人材をめぐって企業との競争が起きており、軍隊にとって大きな課題になっている。1970年代に軍事社会学では軍人の社会的地位が標準化され、職業選択の一つに過ぎなくなったというアメリカの社会学者モスコス(Charles Moskos)の指摘があり、これは制度的モデルから職業的モデルへの移行であると説明された。
今日における軍隊のあり方についてはさまざまな議論がある。2001年以降に激化したテロとの戦いを受けてテロリストのような非国家勢力を脅威とするポスト近代型の軍隊が主流になる可能性が指摘されたが、2010年代以降に再び国家を脅威として認識する見方も強まっている。そのため、軍隊には小規模な脅威から、大規模な脅威に至るまで、複合的な任務を遂行することが期待されるようになっているといえるかもしれない。今後、軍事組織がどのような方向に向かって発達するかは定かではない。
ジョルジュ・カステラン『軍隊の歴史』 西海太郎、石橋英夫訳、 白水社、1955年
アンジェイエフスキー『軍事組織と社会』坂井達郎訳、新曜社、2004年
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