陸軍

陸軍

陸軍(army)とは、陸地において戦闘を遂行するための人員、武器、装備、施設を保有する軍事組織であり、海軍空軍に並ぶ軍種である。

英語で陸軍を意味するarmyはもともと戦争のために武装し、訓練された集団全般を指していたが、地上で交戦する部隊という意味で使われ始めたのは18世紀の後半からである。

陸軍の任務は陸地を支配することと密接な関係がある。陸地はそこに居住する人々の基本的な生活空間であると同時に、国家が存立する上で基礎となる領土を構成する。陸軍は人々の生存と国家の存立を可能にしている陸地を占領という形で排他的かつ永続的に支配することが可能な軍種であり、戦争の歴史で最後の勝敗を決する役割を果たしたことも少なくない。しかし、陸軍は軍隊の歴史において最も古くから存在する軍種であり、その機能と構造については時代や地域によって異なる点が多い。

ここでは正規軍(regular army)と非正規軍(irregular army)の区別を考えたい。この区別で基準になるのは、国家の公権力によって編成された陸軍かどうかである。正規軍は国家に服従し、法令、階級などによって官僚化されているだけでなく、専門的な教育訓練を受け、高度な技術を駆使した装備を使用し、部隊の編制も洗練されているため、決戦のように局地的、瞬間的に発揮できる戦闘力に優れている。それに対して非正規軍は国家権力から独立して行動する陸軍であり、言い換えれば私兵の集団である。非正規軍はゲリラ、パルチザン、レジスタンス、テロリスト、武装勢力、民兵、革命軍、反乱軍など、その呼び名はさまざまあるが、教育訓練の程度は低く、装備は単純であり、また指揮系統が十分に集権化されていない場合が多い。全面戦争、限定戦争では直ちに壊滅する恐れがあるが、低烈度紛争、ゲリラ戦であれば戦果を上げることができる。

正規軍と非正規軍にはそれぞれ利点と欠点があることがクラウゼヴィッツによって指摘されている。非正規軍のような形の陸軍が存在し得るのは、陸地は海洋や空中と異なり、築城工事によって地形を戦力化できるためである。土地の起伏、地質、水系、植生など、陸地では部隊を偽装、隠蔽、掩蔽できる要素が数多くあり、それらを巧みに使用すれば弱小な勢力であっても軍事行動をとることができる。しかし、非正規軍は戦闘力の集中使用ができないため、敵に決定的な打撃を加えることができず、機動展開においても制約が多い。そのためクラウゼヴィッツは正規軍と非正規軍を組み合わせて運用することを提案している(学説紹介 戦争で非正規軍をどのように運用すべきか:クラウゼヴィッツの見解)。