戦争

戦争

戦争(war)は一般に武力を伴った敵対行為が行われる国家間の紛争として定義される。ただし、現実の世界で戦争状態と平和状態を明確に区別することは容易ではなく、また内戦(civil war)のように非国際的な武力紛争の意味で使用される場合もある。

概要

戦争は多面的な現象であり、時代や地域によってさまざまな様相を示してきた。伝統的な国際法で戦争は国家間で遂行されることが想定されているが、国内で反徒が軍隊を組織して内戦(civil war)を起こす場合も少なくなかった。戦争を遂行する方法を見ても、彼我の軍隊が交戦する正規戦争(regular war)ばかりでなく、ゲリラ、パルチザン、レジスタンス、テロリストの活動のように、戦闘員と非戦闘員の区別を曖昧にしたまま遂行される非正規戦争(irregular war)も古来より行われている。このように多種多様な戦争に一貫性のある説明を与えることは、近代の軍事学で大きな問題だった。

19世紀のプロイセン陸軍軍人であり、近代の軍事学の発展に多大な貢献を残したカール・フォン・クラウゼヴィッツは『戦争論』でこの問いに答えを示した。クラウゼヴィッツは軍事的観点から見れば、戦争では我が方の戦力をもって敵方の戦力を殲滅することが基本になるはずだが、軍事史を振り返ると徹底した敵の殲滅がめったに起きていないことに気がついた。この理由を説明するため、クラウゼヴィッツは戦争がそれ自体を目的に引き起こされるものではなく、より上位にある政治的目的を達成するために引き起こされているためだと論じた。つまり、戦争は政治の道具であり、軍隊はその下位にある戦争の道具に過ぎない。このクラウゼヴィッツの理論は戦争の原因を理解する上で重要な意味を持っていた(戦争の三位一体を参照)。

ある国家が戦争を始めるかどうかを判断するためには、その国家の軍事的能力だけでなく、政治的意図を分析することが重要であることをクラウゼヴィッツは明らかにした。つまり、戦争の研究では、その国で政策決定に参加できる人物や集団、その動機や利害、行使できる権限や影響力、外国と結んでいる同盟などを総合的、包括的に分析することが求められる。クラウゼヴィッツの視点は伝統的な軍事学の研究領域を大きく広げる意義があったが、それが広く理解されたのは20世紀の第一次世界大戦第二次世界大戦が終わってからのことである。冷戦期に戦争の分析は国際政治学、安全保障学に引き継がれ、政治、経済、社会、文化などの要因が戦争にさまざまな影響を及ぼしていることが研究されている(防衛大学校安全保障学研究会『安全保障学入門』を参照)。

参考文献

  • Clausewitz, C. von. 1976(1832). On War, ed and trans. M. Howard and P. Paret. Princeton University Press.(邦訳、クラウゼヴィッツ『戦争論』淡徳三郎訳、徳間書店、1965年)
  • 防衛大学校安全保障学研究会編『安全保障学入門』新訂5版、亜紀書房、2018年