戦力比

戦力比

戦力比(force ratio)とは、敵と味方の相対的な戦闘力の比率であり、兵力比、勢力比と表記されることもある。

ナポレオンは「神はより大きな大隊の側に立つ」と言い残しているが、これは戦力比の基本的な考え方を表わしており、地形や気象などの環境要因、武器の種類や性能、部隊の練度、規律、団結、指揮官の戦術能力などの質的要因の影響が彼我ともに同じ程度だと想定すれば、部隊の戦闘力は部隊の規模によって規定されており、また部隊の規模が戦闘の結果に反映されると考えられる。クラウゼヴィッツは『戦争論』において、この説を数の法則(law of number)と呼んでいる。

軍事学において戦力比は戦闘の結果を予測する大まかな目安として何世紀にもわたって使われてきた。19世紀の南北戦争においてアメリカ大統領エイブラハム・リンカーンは、戦争指導の際に戦力比の計算を使って戦略を検討しており、また20世紀の第一次世界大戦に関するイギリス陸軍の戦史研究では「勇気、訓練、士気、装備が同党の両軍においては、敵を陣地から駆逐するのに3倍の兵力を必要とすると見られる」と報告された。これらはいずれも厳密な分析に依拠した議論ではなかったが、戦力比が軍事上の意思決定における判断基準として使われてきたことを示している。

第二次世界大戦以降にランチェスターなどが編み出したオペレーションズ・リサーチの方法が軍事学で普及し、また研究の基礎資料となるデータの蓄積が進んだことを受けて、1970年代初頭からこのような従来の理解には問題があることが指摘されるようになった。そのため、単純な部隊の規模ではなく、武器の種類や作戦の形態などを考慮に入れて戦闘力を定量化し、それに基づいて戦力比を計算することで戦闘の結果を説明することが試みられるようになった。

このように理論的研究は着実に進展しているものの、軍事教育においては依然として従来の説も残っている。例えば、勝率50%を見込みたい場合、周到に準備された陣地への攻撃なら防者の戦力に対して攻者は3倍の戦力を使用しなければならないが、応急的に構築された陣地への攻撃なら2.5倍の戦力比でも事足りるとされる。また、敵を側面から攻撃できるなら、防者と攻者の戦力比が同等でも勝率50%を期待できるが、もし防者が遅滞戦闘を行うならば、攻者に6倍以上の優位がなければならないという説もある。これらの数字は実証的研究によって裏付けられたものではないが、それでも軍事計画の立案作業で参照されることがある。