特殊作戦を成功に導くための六つの原則が提案される

特殊作戦を成功に導くための六つの原則が提案される

2019年10月27日投稿

はじめに

アメリカ海軍軍人ウィリアム・マクレイヴン(William H. McRaven 1955~現在)はアメリカ海軍の特殊作戦部隊であるSEALsの指揮官でした。

2011年にアルカイダの指導者であるビン・ラディンを殺害する作戦の指揮をとり、アメリカ特殊作戦軍の司令官も務めた特殊作戦の専門家です。

マクレイヴンは特殊作戦に関する自らの研究成果を著作として1995年に発表していますが、そこでは自らが考案した特殊作戦を成功に導くための六つの原則が示されていました(1998年に再版されています)。

今回は、特殊作戦の戦術的原則を知るため、このマクレイヴンの分析を紹介したいと思います。

文献情報

マクレイヴンは特殊作戦の基礎は簡潔に立案されることだと述べた上で、注意深く秘匿され、入念な予行によって準備されることが重要であり、最後に奇襲、速度、目的をもって実行に移すべきだと主張している。この図は簡明さを基礎として、その他の要素がはじめて効果を持つことを示した概念図(McRaven 1995: 11)。

特殊作戦の六原則

マクレイヴンの著作によれば、「特殊作戦とは政治的、あるいは軍事的に破壊、殺害、(人質の場合においては)救出しなければならない特定の目標のために特別な訓練、装備、支援を与えられた部隊によって遂行される」と説明されています(McRaven 1995: 2-3)。

特殊作戦部隊が敵に対して「相対的優勢」を確立し、作戦を成功させるための必要条件として、マクレイヴンは以下の6個の原則があると論じました。それぞれの原則の内容をまとめると以下の通りです。

  • 簡明:達成すべき目標を少数に限定することで戦争の摩擦を最小限に留める。

  • 警戒:敵に我の能力や攻撃の時機、方法などに関する情報を与えない。

  • 反復:作戦の予行を事前に繰り返し、計画の弱点を突き止める。

  • 奇襲:攻撃の時機や方法に独創性を持たせ、また欺騙を駆使することによって、防御を図る敵に行動の自由を与えず、敵に対応させない。

  • 速度:可能な限り短時間で目標に到達し、また敵と交戦する時間を短く抑える。

  • 目的:任務を明快に規定し、それを達成するための各人の役割を明確にする(Ibid.: 9-14, 14-15, 15-16, 16-19, 19-21, 21-23)。

これらの原則が前提としているのは、特殊作戦が本質的に数的に劣勢な小部隊によって遂行されるということです。

つまり、特殊作戦部隊は数的に不利な条件下で実施しなければならない攻撃であり、常に大きなリスクを抱えながら実施されることを認識しておかなければなりません。

もし指揮官が特殊作戦の計画を立案するのであれば、敵に対する数的劣勢をどのように挽回するのか、つまり非物質的要因でどこまで「相対的優勢」を確立することができるのかが戦術上の課題となります(Ibid.: 11)。

もちろん、ここに述べた六つの原則を守るだけで特殊作戦の成功が確約されるわけではありませんが、成功を収めるために指揮官が見過ごしてはならない重要な原則と位置づけられています。

むすびにかえて

軍事学の研究の中でも特殊作戦の理論というのはやや珍しい部類に入るでしょう。陸上、海上、航空作戦にはそれぞれに対応する軍事理論が考案されていますが、そもそも特殊作戦の運用に理論が必要なのかという疑問も生じてきます。こうした疑問に対してマクレイヴン自身は次のように反論しています。

「なぜ特殊作戦の理論が重要なのだろうか。それは、特殊作戦を成功させるためには、数的に優勢であり、あるいは強固な陣地に立てこもる敵を小部隊で撃破するためには、通常の考え方を打ち破らなければならないためである」(Ibid.: 1)

さらに、マクレイヴンは特殊作戦の理論で最大の課題は不確実な状況の中で作戦を指導することであり、戦争の摩擦を局限することが重要だと論じています。

「わたしは特殊作戦部隊のための戦いの原則を駆使することによって、カール・フォン・クラウゼヴィッツが戦争の摩擦と呼んだものを管理できる水準に引き下げることが出来ることを示したい。いったん特殊作戦部隊の摩擦を最小化することができれば、敵に対して相対的優勢を獲得することが可能である。いったん相対的優勢が獲得されれば、攻撃する部隊はもはや劣勢に立たされてはおらず、敵の弱点を突いて主導権を握り、勝利を得ることになる」(Ibid.)

この記述を読むだけで、マクレイヴンは経験豊富な指揮官であるだけでなく、過去の軍事学の研究を基礎にしながら、自らの軍事思想を明快に表現することができる優れた研究者でもあることが分かるのではないかと思います。

武内和人(Twitterアカウントnoteアカウント