オペレーションズ・リサーチ

オペレーションズ・リサーチ

オペレーションズ・リサーチ(operations research, operational research, OR)とは、システムの運用に関する問題に対して最適な解を与えることを目的とした数学の応用研究である。今日、ORは軍事の領域だけに限らず、民間の問題解決にも幅広く応用されているため、本稿においては軍事オペレーションズ・リサーチに(military operations research, MOR)に焦点を絞って解説したい。

ORの歴史的発展はイギリスの技術者フレデリック・ランチェスターの研究業績から始まっており、1916年の著作『戦争における航空機(Aircaraft in Warfare)』は戦争における彼我の戦力と損害の関係を微分方程式を用いてモデル化した研究として最も初期のものである。しかし、微分方程式によって戦争をモデル化した最初の研究はロシアのオシポフ(M. Sipov)が1915年の時点ですでに発表されていたことも指摘されている。いずれにせよ、1914年に第一次世界大戦が勃発したことを一つの契機としてORが軍事学の世界に登場したことは確かであり、1939年に勃発した第二次世界大戦でイギリス軍やアメリカ軍を中心に組織的な調査研究が発展したことが、その後のORの発展の礎になった。戦後、ORに関する著作が続々と刊行されるだけでなく、学会組織の立ち上げも相次いだ。1948年にロンドンでオペレーショナル・リサーチ・クラブ(1953年にオペレーショナル・リサーチ学会へ移行)が、1952年にアメリカ・オペレーションズ・リサーチ学会が創設されたことにより、ORは新しい学術研究の一領域として発展し始めた。

その後も軍事学ではORの重要性が広く認められたが、冷戦期の軍事学の課題は戦闘の分析だけでなく、核兵器の戦略的運用、つまり核戦略へと広がっており、単に戦前の研究を延長するだけで解決できない問題に直面していた。1944年にフォン・ノイマン(von Neumann)とモルゲンシュテルン(Morgenstern)は『ゲーム理論と経済行動(Theory of Games and Economic Behavior)』においてゲーム理論(game theory)を示したが、これは核戦略の研究にとって大きな価値があった。ゲーム理論は異なる目的を持った行為主体が起こり得る事態の効用をそれぞれ定量的に評価した上で、自らの利得を最も大きくできる戦略を選択する合理性を想定する。そのことによって、ゲーム理論は最適な戦略的行動、それぞれの行為主体の行動によって生じる結果の性質、あるいは行為主体の間で形成される提携の可能性やその安定性を分析することを可能にした。トーマス・シェリングの戦略に関する研究もこの領域における成果に依拠したものである。

また冷戦期の軍事学におけるORの重要な貢献としてシステム分析(system analysis)を確立したことも挙げられる。歴史的に見ても、どれだけの支出があれば国防の上で十分な水準だといえるのかを判断するには多くの労力を要したが、冷戦期に装備体系が複雑化し、研究開発に要する時間や資金が膨張すると、意志決定を支援する体系的な分析手法が必要になった。ヒッチ(C. J. Hitch)とマケイン(R. N. McKean)の著作『核時代における防衛経済学(The Economics of Defense in the Nuclear Age)』はこのような問題を解決するためにシステム分析の方法を用いることを提案しており、特に費用対効果を詳細に検討することを唱えた。1961年に成立したケネディ政権でPPBS(Planning-Programming-Budgeting System, PPBS)と称する予算管理の仕組みを導入した際にヒッチは国防総省に迎えられ、システム分析をアメリカ軍に定着させることに貢献した。

軍事学におけるORとしてもう一つ取り上げるべきは、ゲーミング(gaming)・シミュレーション(simulation)の方法である。いずれも戦争のモデルを設定し、それをさまざまな条件で実行することによって、予想される結果を導き出すことができるが、ゲーミングにおいては多くの場合で部隊の指揮官としての役割を実際の人間が果たす。それに対してシミュレーションは人間が介在する余地がなく、ある条件でモデルがどのように挙動するのかを調べるために複数回にわたって計算機でモデルを実行するものである。解析的なアプローチで解決できない戦略・戦術の問題を解決するために、ゲーミング・シミュレーションは重要な方法論として位置付けられている。

文献案内

  • Gass, S. I., et al. 1996. Encyclopedia of Operations Research and Management Science, Kluwer.(邦訳『経営科学OR用語大辞典』朝倉書店、1999年)
  • 飯田耕司『軍事ORの理論』改定版、三恵社、2010年