モデルの妥当性

モデルの妥当性

モデルの妥当性(validation)とは、研究の対象とする現象の動きと照らし合わせた時に、そのモデルが正しく動くと評価される性質をいう。

シミュレーションによって研究や教育を行う場合、そこで使用されているモデルの妥当性を検証することが必要になる。しかし、モデルの妥当性の問題は多義的、多面的な問題であり、すべてのモデルの妥当性を検証するために一般的に適用できるような評価手法は存在しない。

モデルの妥当性を検証するためには、モデルの内容を詳細に調べるだけでなく、それがどのような目的に沿って使用されるのか、利用できるデータにどのような制約があるのかなど、包括的な検討が必要である。研究者のアーノルド・バーネット(Arnold Barnett)はモデルの妥当性に関する考察の中で、失敗を避けるために注意を払うべき事項を以下の10点にまとめた。

  1. モデルの目的は何か。
  2. モデルが目標を達成するためには、どの程度正確な記述が必要か。
  3. モデルが実際に達成したところと(2)に述べた要求とを比較するために、モデル作成者は十分な情報を与えてくれるか。以上の3点はモデルの妥当性を評価する際に考慮すべき事項として取り上げられている。
  4. モデルには選択に際して偏見が存在するという、危険性のない信頼できるデータが備わっているか。
  5. モデルは研究対象のプロセスを表現するのに密接に関連する変数を省略していないか。
  6. モデルは論理的構造が正しく表されているようにみえるか。主要な仮定は、真実であることが自明でないとしても、少なくとも不合理に思える点はないか。
  7. モデルの記述は合理的かつ包括的か、あるいは重要な問題が混乱を招くように簡単に扱われていないか。
  8. モデル作成者は主要な結論が信頼できるものであるという証拠を提供できるか。彼らはモデルの正当性を真剣に考慮しているか。
  9. モデル作成者によってなされた感度分析は、主要なモデルに対する重要な代替案の範囲を反映しているか。あるいはある種の現実的な変化が考慮されていないのではないか。
  10. モデル作成者はどれほど注意深く彼らの成果の結論の枠組みを構築しているのか。必然的に得られる限定的な所見は真実であるか。あるいはそれらは潜在的な批評に対して先制的な攻撃をしているようにみえるか(Barnett 1998: 65-66)。

このチェックリストに満足のいく答えを出せただけで、直ちにそのモデルの妥当性が証明できるわけではないが、これはモデルの妥当性に幅広い意味が含まれていることが示されている。モデルの妥当性の検証は実際に使用されるようになった後であっても継続的、反復的に実施されるべきであり、事後的に問題が発見されたならば、速やかに原因を究明してモデルを改善する取り組みが必要である。

参考文献

  • Barnett, A.「モデルの失敗」大山達夫監訳『公共政策ORハンドブック』(普及版)朝倉書店、2007年