戦争の三位一体

戦争の三位一体

戦争の三位一体(Dreifaltigkeit)とは、プロイセンの軍人カール・フォン・クラウゼヴィッツの著作『戦争論』で唱えられた概念であり、戦争の理論が常に考慮すべき3種類の傾向をまとめたものである。

概要

『戦争論』でクラウゼヴィッツが取り組んだ問題の一つに、戦争の理論を研究するための視座を確立することがあった。戦争はそれ自体が独立して生起する現象ではなく、その背後には政治的目的があるとクラウゼヴィッツは考え、政治の道具として戦争を捉えなければ、戦争史を正しく理解することはできないと主張した。

ただし、クラウゼヴィッツは戦争に独自の性質があることを認めなかったわけではなく、その暴力性もまた戦争の本質と密接な関係があると考えた。この戦争の暴力的側面と区別されているのが、偶然的側面である。つまり、極めて不確かな状況の中での行動を強いられるという性質もあり、軍人の才能はそのような状況にあっても勇敢さと合理性を保って行動することが求められる。以上の考察から、クラウゼヴィッツは次のように述べている。

「第一に、そこには、その本来的性格である暴力性、盲目的な自然的衝動とみなすべき憎悪および敵愾心がある。第二に、蓋然と偶然の働きがある。それは、戦争を一つの自由な精神的活動たらしめる。第三に、戦争は、政治の道具としての従属的性質をもっている。これによって戦争は、もっぱら理性の活動舞台となる」(邦訳、クラウゼヴィッツ、46頁)

戦争の三位一体は、戦争で見られる行動に見られる傾向性をまとめたものであり、暴力性は国民の行動と、偶然性は軍隊の行動と、従属性は政府の行動とそれぞれ関連があると説明されている(同上)。さらに、これらのどれかを無視するような理論があれば、それはたちまち現実から解離し、役に立たないものになるともクラウゼヴィッツは警告した。戦争の三位一体は戦争の多面性を説明するだけでなく、クラウゼヴィッツが戦争を研究する際に、どのような側面を重視していたのかを知る上で興味深い。

参考文献

  • クラウゼヴィッツ『戦争論』淡徳三郎訳、徳間書店、1965年