アジア太平洋で軍事支出がどれほど増加しているのか

アジア太平洋で軍事支出がどれほど増加しているのか

2019年10月11日投稿

はじめに

アジア太平洋地域における軍事的緊張の高まりはさまざまな形で表れつつありますが、それを数字として示すデータがあります。それは軍事費のデータです。

ストックホルム国際平和研究所(Stockholm International Peace Research Institute, SIPRI)は世界の武力紛争、武器取引、軍備管理に関する調査研究を専門とするシンクタンクであり、世界規模で軍事費がどのように推移しているのかを監視し、その成果を発表しています。

今回は、その報告に依拠しながらアジア太平洋地域における軍事情勢の変化について説明したいと思います。

2017年9月、式典の準備のために整列する中国軍の部隊。中国軍は2018年にアジア太平洋で最大規模の予算を獲得し、その能力の拡大を進めている(Photo: Defense Intelligence Agency)

この数年間で中国をはじめアジア各国が軍事支出を増やしている

2019年4月にSIPRIから発表された分析結果によれば、2018年にアジア太平洋地域(アジアおよびオセアニア)で支出された軍事費の総額は5070億米ドルであり、全世界で支出された軍事費のおよそ28%がこの地域で支出されています。この報告の要点を紹介することで、東アジアの軍事情勢がどのような状態にあるのかを考えてみたいと思います。

この研究報告では、世界でも特に多くの軍事費を支出する上位15か国のうち5カ国が含まれていることが指摘されています。その内訳は第2位の中国、第4位のインド、第9位の日本、第10位の韓国、第13位のオーストラリアの5カ国です。

この地域で支出される軍事費が増加する傾向は最近になって発生したものではなく、歴史的には1988年までさかのぼることができることが指摘されています。ただし、2009年から2018年までの間にこの地域で支出された軍事費は46%と急激な増加率を見せており、世界的に見ても軍事費がこれほどの速さで増加している地域は他に存在しません。

2018年にSIPRIで発表された2017年におけるアジア太平洋の主要国の軍事費の規模と増加率(2008年と2017年の比較で計算)を示す統計地図。軍事費の大きさを円の面積で、増加率の高さを矢印の長さで表している。大きい順に見ると、まず中国の軍事費が2280億米ドルで増加率が110%であり、その次にインドの軍事費が639億米ドルで増加率が45%である。日本が454億米ドル・増加率4.4%、韓国が392億米ドル・増加率29%、オーストラリアが275億米ドル、増加率33%と続く。(Map: SIPRI www.sipri.org 2018)

中国の軍備増強が最大の要因だが、他国の軍事費も増加している

この地域で軍事費を最も多く支出しているのは中国であり、2018年にこの地域の軍事費の49%を1国で支出しています。2009年の時点で中国の軍事費は地域全体で見ても31%の割合を占めていたに過ぎなかったことを考慮すれば、この変化は非常に大きなものであると言えます。

2018年にインドの軍事支出も増加していますが、これは中国というよりもパキスタンの脅威に対抗する意味合いが強いと考えられています。パキスタンの2018年の軍事支出は世界的に見て20番目の水準ですが、2009年以来増加する傾向にあります。ただし、2018年のインドの軍事費の水準はGDPに対する比率で比較すれば、過去50年で例がないほど低いとも指摘されています。

南アジアから東アジアに目を転じると日本と韓国の軍事支出が増加しています。ただし、両国とも従来の予算制度を大枠で維持する姿勢をとっており、日本はGDPに対して1%の水準を、韓国は2000年以来の軍事予算の水準で推移しています。オーストラリアについては2009年から2018年までに軍事費の増加率を21%に大幅に引き上げましたが、2017年から2018年の間に限定すると、3.1%ほど軍事費が減少しており、その動きは必ずしも一貫していません。

むすびにかえて

SIPRIは世界的に評価されているシンクタンクであり、その分析の内容にも定評があるのですが、軍事費という概念は国によって定義が異なる部分があり、またSIPRIのデータだけに依拠して結論を下すことができない点に留意しておかなければなりません。

それでも、今回の分析結果は、アジア太平洋地域における軍事情勢の動向を理解し、今後の展開を予測する上で参考になると思います。注目すべきはやはり中国の軍事力が拡大している点ですが、同じく経済的に成長しているインドの軍事費の伸び方が中国と同じパターンをとっていないことは興味深い点です。

武内和人(Twitterアカウントnoteアカウント


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