『戦争術概論』

『戦争術概論』

『戦争術概論』はジョミニの業績の中でひときわ広く知られているものであり、19世紀後半に多くの読者を得て、マハンなどの思想に重要な影響を与えた。ここでは重要なテーマに関する抜粋とそれに関する解説記事へのリンクを配置した。随時、内容は追加、更新する予定である。

戦略について

「戦略とは、作戦地域の全体を含む図上で戦争を遂行する技術」(Jomini, A. H. 1862. The Art of War. trans. G. H. Mendell, and W. P. Craighill. West Point: U.S. Military Academy: 69)

「戦略はどこで行動するかを決定し、兵站は部隊をこの地点に動かし、大戦術はその部隊の要領と展開を決定する」(Ibid.)

「戦略においては以下の論点が含まれている。

(1)戦域の選択とそこに含意されるさまざまな関連に関する考察。

(2)戦域の組み合わせにおける決勝点と、最も有利な作戦方針の決定。

(3)恒久的な基地と作戦地帯の選択と設定。

(4)攻勢と防勢における目標地点の選択。

(5)戦略正面、防衛線、作戦正面。

(6)目標地点と戦略正面を接続する作戦線の選択。

(7)所定の作戦で最良の戦略線とあらゆる事態に対応するために必要なさまざまな機動。

(8)必然的に使用する作戦基地と戦略予備。

(9)機動と考えられる軍の行進。

(10)補給処の位置と軍の行進との関係。

(11)軍の避難場所として、また攻囲や守備に見られるように軍の前進の障害となる戦略的手段としての要塞。

(12)駐屯地や橋頭堡に適当な地点。

(13)牽制の実行とそれに要する大規模な分遣隊(Ibid.: 68-9)


戦いの原則について

「戦争における全ての作戦の基礎には一つの根本原理が存在する。優れた作戦を立案するに当たって、それは必ず準拠しなければならないものであり、以下のような原則がある。

(1)我の後方を掩護しながらも、その戦域の決定的地点または敵後方に対して、我の軍主力を戦略機動によって可能な限り継続的に指向すること。

(2)我の主力が敵の一部と交戦するように機動すること。

(3)戦場において敵を打破するために最も重要な決定的地点または前線の部分に対して主力を投じること。

(4)単に決定的地点に対して我の主力を投じるだけではなく、適当な時期に十分な戦力で交戦する準備を整えること」(Ibid.: 70)

学説紹介 シンプルで奥深いジョミニの戦略思想

現代の軍事学者が考えるジョミニの研究の4つの問題点


軍事政策について

「この分類によれば、国民の情念、軍事制度、現役、予備役、資金、自己の政府と社会制度に対する愛着、執政部の特性、軍隊の司令官の特性、軍事的能力、司令官の作戦行動を決定する首都の内閣会議や戦争指導会議の影響、幕僚が支持する戦争方式、一国の常備軍と軍備、侵攻を企図する国家の軍事地誌、軍事統計、直面することが予想されるあらゆる種類の敵の勢力と障害、そして外交と戦略に含まれない一切がこの軍事政策に含まれている。

政府はこれらの詳細な知識を入手することに決して怠慢であってはならず、全ての計画の立案においてこれらを考慮に入れることが必須である。これ以外のことで軍事政策について確立された法則というものは存在しない」(Jomini, A. H. 1862. The Art of War. trans. G. H. Mendell, and W. P. Craighill. West Point: U.S. Military Academy, p. 38-9)

「(1)国家の指導者は政治と軍事の両方について学識が与えられていること

(2)また、彼自身が軍を指揮しない場合、その能力に最も優れた将軍を見出すことができること

(3)常備軍の規模は必要に応じて予備によって倍加できるようにしていること

(4)戦争に必要な装備や物資を武器庫や補給処に十分に確保し、他国の技術開発の成果も積極的に活用すること

(5)軍事学の研究を推奨、表彰し、その分野の研究団体に敬意を払わせることで、優秀な人材を確保すること

(6)平時の幕僚はあらゆる事態に備えて平素から計画を立案し、関係する歴史、統計、地理、理論について研究させておくこと

(7)攻撃または防御を行う相手国の軍事的能力を判断するための研究に、優秀な士官を充てて、成果があればこれを表彰すること

(8)開戦となった際に作戦の全局にわたる計画を準備することは不可能であるが、我が作戦が成功するために不可欠な基地機能や物的準備を事前に整えていること

(9)作戦の構想については彼我の戦争の目的、敵の特性、地域の状況、また作戦で使用し得る戦力、戦争に介入する恐れがある国家の能力などが考慮されること

(10)国家の財政状況を戦争状態に適応させること」(Ibid.: 49-51)

ジョミニが考える軍事政策の基本原則