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2019年9月14日投稿
ロシアが海外で軍事活動を展開するときに、民間軍事警備会社(Private Military Security Company, PMSC)を活用していることは、以前から専門家、研究者の間で知られていました。
特にワグナー(Wagner)はロシア政府の支援を受けているPMSCとして有名であり、例えばシリア内戦で2,500名の「社員」を派遣したことが報告されています。
米国にもPMSCは存在しており、一つの業界を形成していますが、米国政府はPMSCを消極的、防御的な目的を達成するためにのみ使用しています。しかし、ロシア政府はPMSCを積極的、攻撃的な目的を達成するためにも使用しており、その運用の実態にはかなり違いがあります。
今回は、こうした違いを踏まえてロシアのPMSCを調査し、ロシアの戦略とどのような関係を持っているのかを考察した研究を紹介します。
論文情報
Christopher R. Spearin, Russia's Military and Security Privatization, Parameters, 48(2), Summer 2018, pp. 39-49.
現代のようにPMSCが増加するようになった背景には2001年以降のテロとの戦いがあります。米国政府は中東地域における作戦を通じて、この民間の戦力を多用してきました。
ロシアでも2010年代に入るとPMSCの役割が理解されるようになり、それが現代の戦争において新しい戦力となり得ると考えるようになりました。
もちろん、PMSC単体では正規軍のような組織的な戦闘力を発揮することなどできません。
しかし、正規軍が作戦を開始する前に現地に進入し、情報の収集などに従事する先遣隊として活動することは可能であり、また反政府勢力の援助や指導といった任務を遂行する場合にも使用できます。
例えば、ロシア・セキュリティ・システム(RSB)は2016年から2017年にリビア東部で地雷の撤去を行ったとされていますが、経営者のOleg Krinitsynはもし現地でRSBの社員が攻撃を受けた場合は、自らの身の安全と雇用主を守るため、戦闘に参加すること、その反撃の際には敵を撃滅しなければならない場合もあるということを示唆しています。
さらに、ロシアの外務省はこのRSBから「コンサルティング」を受けていることを示唆しており、これらの状況から、ロシア政府はリビアで軍事的影響力を維持あるいは拡大するためにPMSCを活用している可能性が高いのではないかと著者は考えています。
しかし、PMSCのあらゆる活動がロシア政府の意向によるわけでもないと著者は指摘しています。シリア内戦におけるスラヴォニック隊(Slavonic Corps)は、2013年にシリア政府と契約を結んだロシアのPMSCのモラン・セキュリティ・グループからエネルギー施設の警備業務を受注しました。
このスラヴォニック隊は5か月間の警備業務のために267名の社員を現地に派遣していましたが、任務が段階的に修正され、シリアの反政府勢力に対する攻勢作戦に参加することになりました。
しかし、この部隊は戦力の不足から1カ月で業務を継続することができなくなりました。その後、2013年の秋にロシアの連邦保安庁がスラヴォニック隊の指揮官2名を逮捕されています。
この記事で最初に紹介したワグナーは2014年のウクライナ紛争で注目を集めたPMSCです。この会社はウクライナ東部付近のロシア軍基地周辺に拠点を構え、親ロシア派の反乱軍に参加する兵士を募集し、これを組織化する業務を行っていたことが西側の報告書で公になりました。
このPMSCについてはロシア軍の指揮下で動いていた可能性が高いと見られていますが、内情については現時点でよく分かっていません。
著者はこうしたロシアにおけるPMSCの運用は、防衛のための使用のみに制限するという米国の運用とまるで異なると述べており、これは米国として対応を検討すべき問題であると論じています。
第一に、ロシアが今後の戦争でも攻撃的な方法でPMSCを運用する場合、PMSCの活動領域を防御の範囲に限定しようとする米国の取り組みが実効性を持たなくなる危険があります。第二に、ロシアはこれらPMSCをさらに強化する恐れがあり、それに追随して他国でもPMSCの育成に乗り出してくる可能性もあります。
しかし、その対策は容易なことではないと著者も認めています。紛争におけるPMSCの行動規範であるモントルー文書(Montreux Document)の実効性を高める努力を重ねることを著者は結論において呼び掛けていますが、政府の意向を強く受けるロシアのPMSCに対する効力ははっきりしません。
今後の戦争でも、ロシアが軍事的介入においてPMSCを使用する恐れがあるものと考えておく必要はあるでしょう。
武内和人(Twitterアカウント;noteアカウント)