アフガニスタン紛争で何をなすべきか

アフガニスタン紛争で何をなすべきか

2019年8月2日投稿

はじめに

2001年9月11日、アメリカの同時多発テロ事件が発生し、国際テロリズムを撲滅するための戦いが始まってから18年の月日が経とうとしています。

アメリカは北大西洋条約機構(NATO)の加盟国を巻き込み、2001年10月7日にイスラーム過激派を支援するタリバン政権打倒のためにアフガニスタンに進攻しました。

しかし、首都を奪われた後もタリバンはパキスタンとの国境地帯に拠点を構築して戦い続けており、2019年8月の現在においても一定の勢力を保っています。

今後、アメリカはアフガニスタンでどのように行動すればよいのでしょうか。ここに取り上げる研究はこの問いに答えを出そうとしているものです。

論文情報

アメリカの力をもってしてもタリバン打倒は難しかった

アメリカは2001年以来、アフガニスタンで18年近くにわたって戦い続けてきました。アメリカ軍の歴史にかつてなかった長期戦になっています。

特に対反乱作戦、対テロ作戦、アフガニスタン軍の教育訓練など、アフガニスタンの治安を回復させるための努力を重ねてきましたが、依然としてイスラム過激派の武装勢力であるタリバンが脅威を及ぼしています。

著者はアフガニスタンの問題をすべて解決できる単純な対策があるわけではないと認めていますが、この紛争でアメリカが何かしらの成功を収めるためにどうすればよいのかを包括的に検討しました。その結果、著者は根本的な問題が4つあると指摘しており、それは以下のように総括されています。

  1. パキスタン、つまりアフガニスタン国外におけるタリバンの聖域を縮小させなければならない。

  2. アヘン栽培の利権を取り締まり、タリバンがそれを利用することを防がなければならない。

  3. アフガニスタン軍の能力を改善し、タリバンの幹部の多くを殺害しなければならない。

  4. タリバンとの和平のために採用可能な選択肢を広げなければならない。

パキスタンの問題が取り上げられているのは、アフガニスタンで攻撃を加えるタリバンがパキスタン軍の支援を受けていることが分かっているためです。

タリバンの本拠地はアフガニスタンとタリバンの国境地帯にあることが分かっており、アメリカは再三再四パキスタンに圧力をかけてきましたが、アフガニスタンを分裂させておいた方がパキスタンの安全保障の面で有利なため、パキスタンはタリバンを通じてアフガニスタンに軍事的圧力をかけ続けています。

この研究で興味深い点は、アメリカの能力だけでこの問題を解決することが難しいことが率直に認められているところであり、タリバンとの軍事的対決を続けるだけでなく、いかに望ましい条件で和平を実現するかが検討されています。

2019年7月にこの研究が発表された時点でアメリカのトランプ政権はアフガニスタン紛争の出口を求め、タリバンと和平協議を進めようとする姿勢を打ち出しています。その先にあるのはアフガニスタンに展開する部隊の縮小です。

アフガニスタン軍の増強を通じてタリバンに対して軍事的に対抗することは引き続き重要だと述べていますが、著者はタリバンとの戦闘でアフガニスタン軍に多大な犠牲が出ていることも考慮しています。全体として議論は和平をどのように具体化していくのかという方向へ向かっており、現在のアフガニスタンの政権がタリバン政権にとって代わるシナリオも視野に入っています。

厳しい状況の中でも著者はアフガニスタン軍の戦闘力を強化してタリバンと軍事的な均衡状態を作り出し、アフガニスタンの国家体制を分権的、連邦的な構成に再編成することが重要であると主張しています。

しかし、タリバンにすべてを明け渡すべきではない

アメリカはアフガニスタン紛争でタリバンを打倒できなかった事実を認めなければなりません。しかし、だからといって2001年のアフガニスタンの状況にすべてを巻き戻すような事態は避けなければならない、と著者は論じています。

アメリカ軍をアフガニスタンから撤退させるとしても、その後のアフガニスタンでタリバンの勢力を牽制できるような連邦主義的な政治制度を残さなければなりません。

もともとアフガニスタンは部族制社会であり、その中には反タリバン派の立場をとる勢力もいます。

もしアフガニスタンの国家体制の中でそうした勢力が各地方に分立し、中央の政権に対して政治的に対抗できる仕組みを導入すれば、タリバンがアフガニスタンで再び勢力を取り戻しても、その影響力を大幅に削ぐことが期待できると著者は提案しています。

「このシナリオにおいて、現状の境界が維持され、タリバンは今の領地を統治し、カンダハールにおいて活動している反タリバン勢力の助けにもなり、また旧北部同盟はタリバンに対して宗主としての地位を保つことが可能になる。これは恐らくパキスタンがアフガニスタンに固執する「戦略的縦深」を満たし、アフガニスタンに対テロリズムの拠点を必要とするアメリカの要請も受け入れることが可能だと考えられる」(Mason, 2019: 71)

このような合意をまとめること自体が依然として難しい問題です。しかし、著者が見たところ、これが最も現実的なアフガニスタン紛争の終わらせ方であり、この状況を目指してアメリカとしても軍事的、外交的努力を調整すべきだと考えられています。

まとめ

この記事を執筆している2019年8月2日現在、アフガニスタンでは大統領選挙のシーズンに入っており、再びタリバンの動きが活発になっているようです。

アメリカでも2020年の大統領選に向けてトランプ政権が有権者の支持を固めるため、駐留部隊の撤退の意向を示しており、今後のアフガニスタンの情勢がどのように推移するのか注目されます。

著者が述べるように、アメリカ軍の部隊を撤退させた後もアフガニスタンにおける今の国家体制を維持し、タリバンの影響力を封じ込めることが可能になれば、18年近くにわたる戦いにも意味はあったといえるでしょう。しかし、その成果さえもアメリカの手に残るのか分からないのが現状です。

この研究は転機を迎えようとしているアフガニスタン紛争の現状を知る上で興味深い内容であるだけでなく、今後この国でどのような事態が起こり得るのかを見通すためにも有益であると思います。

武内和人(Twitterアカウントnoteアカウント