軍事学のトップジャーナルを紹介する

軍事学のトップジャーナルを紹介する(2020年)

2020年3月5日投稿

はじめに

研究者は各自の専門領域に応じたジャーナル、つまり学術誌を読み、最近の研究動向をいつも確認しています。ジャーナルにはさまざまな種類があり、特定の研究対象に特化した論文ばかりを掲載する専門性の高いジャーナルもあれば、さまざまな学問分野を横断した論文を掲載するジャーナルもあります。

ジャーナルにはそれぞれに固有の役割があり、一概に序列を設けるべきではないのですが、掲載された論文の影響力を被引用数と見なして指標化し、特に大きな影響力を持っているジャーナルはしばしばトップジャーナルと呼ばれています。もちろん、被引用数が小さくても、その分野で確固とした地位を築いたジャーナルもあるのですが、最近ではジャーナルを影響力でランク付けするGoogle Scholarのようなサービスもあるため、軍事学の領域のジャーナルもランク分けされています。

今回は、軍事学の分野で特に重要だと著者が判断したトップジャーナルを紹介してみたいと思います。必ずしも客観的指標に従って選んだものではなく、著者の判断で取捨選択しています。また、軍隊で出版されているプロフェッショナル・ジャーナル(専門誌)は扱っていないことも、併せてご承知ください。

軍事学の世界で読まれているジャーナル

『インターナショナル・セキュリティ』は、現代の軍事・安全保障に関するジャーナルとしては、世界で最も広く読まれているジャーナルです。伝統的な安全保障の問題とされる戦争、防衛、戦略などのテーマだけでなく、非伝統的な安全保障問題として注目されるサイバーセキュリティ、環境変動、移民問題、テロリズムに関する論文も多数掲載されています。安全保障に関心を持つ国際関係、政治学の研究者にも読まれています。

創刊は1976年であり、すでに40年以上の歴史があります。編集はアメリカのハーバード大学に設置された公共政策大学院であるハーバード・ケネディ・スクールのシンクタンクベルファー科学・国際問題センター(Belfer Center for Science and International Affairs)が行っており、ここは政界とも深い繋がりを持っています。

『サバイバル』も、軍事・安全保障の領域で世界的な知名度を誇るジャーナルです。創刊されたのは1959年であり、イギリスの国際戦略研究所(International Institute for Strategic Studies)によって編集、出版されています。このシンクタンクは毎年『ミリタリー・バランス(The Military Balance)』を出していることでも知られており、これは世界各国の軍事情勢を知る上で貴重な情報源となっています。最近の情勢を踏まえた戦略問題に関する研究成果が掲載されることが多く、国際関係の分野でも読まれています。

『RUSIジャーナル』は、英国王立防衛安全保障研究所(Royal United Services Institute for Defence and Security Studies)が刊行しているジャーナルであり、軍事学の研究者に長く読まれてきました。このシンクタンク自体がナポレオン戦争で活躍した軍人ウェリントン侯爵(1769-1852)によって1831年に創設された歴史があり、軍事学を専門とするシンクタンクとしては世界で最も古い組織です。イギリスの防衛に関する研究が多く掲載されていますが、国際安全保障に関する論文が掲載されることも少なくありません。

『スタディーズ・イン・コンフリクト・アンド・テロリズム』という名称は1992年以降のもので、1977年に創刊された当時の名前は『テロリズム(Terrorism)』でした。その名の通り、テロリズムに関する論文が掲載されているジャーナルなのですが、広い意味での非正規戦争をテーマとしているジャーナルであり、例えばゲリラ、パルチザンの戦略や戦術、あるいはこの脅威に対抗する対反乱作戦に関する研究が取り上げられています。

軍事学の研究でも特に制度に焦点を当てた研究が多く掲載されているのが、この『アームド・フォーシズ・アンド・ソサイエティ』の特徴です。1974年に創刊され、学際的方法で軍隊と社会の関係を扱った論文を数多く掲載してきました。その立ち上げにはモーリス・ジャノヴィッツ(Morris Janowitz, 1919-1988)というアメリカの社会学者が関与しているのですが、彼はアメリカの政治学者サミュエル・ハンチントンと並ぶ政軍関係論の代表的な研究者として知られています。

『ジャーナル・オブ・ミリタリー・ヒストリー』はアメリカの軍事史学会(Society for Military History)によって1937年に創刊された軍事史学のジャーナルです。軍事史に関心があるのであれば、まずこのジャーナルを読んでみることをお勧めします。名称が何度か変更されており、過去の論文を探す際には少し注意が必要です。創刊当初は『ジャーナル・オブ・アメリカン・ミリタリー・ファウンデーション(Journal of the American Military Foundation)』でしたが、1939年に『ミリタリー・アフェアーズ(Military Affairs: The Journal of Military History, Including Theory and Technology)』に変化し、そして1941年に現在の形で落ち着きました。

『ディフェンス・アンド・ピース・エコノミクス』は防衛経済学を専門とする研究者に読まれてきたジャーナルです。創刊は1990年と比較的新しく、当初は『ディフェンス・エコノミクス(Defence Economics)』でしたが、1994年に現在の名称に変更され、現在に至ります。経済学のモデルを駆使し、防衛政策、防衛調達、防衛産業基盤などを分析した論文が多数掲載されています。軍事学において経済学がどのように応用されているのかを知る上で重要なジャーナルです。

『インテリジェンス・アンド・ナショナル・セキュリティ』は諜報(情報)と国家安全保障の関係を対象にしたジャーナルです。イギリスで1986年に創刊されましたが、当時まだ諜報を専門領域とした学術ジャーナルは存在しなかったため、この分野を一つの研究領域として確立する上で指導的な役割を果たしました。諜報史や秘密作戦などに関心があれば、このジャーナルに目を通すべきです。

『セキュリティ・スタディーズ』は国際安全保障の問題を専門とするジャーナルです。創刊されたのは1991年と比較的最近ですが、戦争の原因、平和の条件に関して影響力ある論文を多数掲載してきました。核兵器の拡散、紛争解決、感染症と安全保障、対外政策と民主主義などのテーマを扱っており、軍事学の方面だけでなく、国際政治学の方面でも参照されるようなジャーナルです。

むすびにかえて

軍事学の研究領域も多種多様ですので、上述した以外にもたくさんのジャーナルがあります。もし自分でジャーナルを調べてみたいならGoogle Scholarの統計情報からSocial Scienceのカテゴリを、さらにMilitary Studiesのサブカテゴリ調べてみてください(Google Scholar軍事学カテゴリ)。現在の軍事学カテゴリに区分されるジャーナルがランキング形式で表示されています。

武内和人(Twitterアカウントnoteアカウント