小部隊戦術を学ぶためのゲームブック『歩兵の戦闘(Infantry Combat)』を紹介する

小部隊戦術を学ぶためのゲームブック『歩兵の戦闘(Infantry Combat)』を紹介する

2020年7月7日

はじめに

ジョン・アンタル(John F. Antal)はアメリカ陸軍で30年にわたるキャリアを築いた経験豊富な軍人ですが、1995年に出版した『歩兵の戦闘(Infantry Combat)』はゲームブックという形を取り入れた小部隊戦術の学習書でした。つまり、この書籍の物語は読者の選択によって変化していくのです。

アンタルは現代の歩兵小隊が戦場でどのように行動するのかを読者に身をもって理解してもらうために、読者自身が指揮官の立場に立つことを要請します。読者は状況を判断し、事後の行動を選択し、決心を下さなければなりません。読者の選択(と時々のダイスの出目)によって主人公は悲惨な敗亡を喫しますが、正しい決断を積み重ねることによって、任務を完遂するハッピーエンドにたどり着くことができます。

本書のあらすじと特徴

この物語の主人公は陸軍少尉ブルース・デイヴィスです。デイヴィスが所属する部隊は中東に急派されることになり、現地で歩兵小隊の指揮をとることになりました。まだ経験が浅いデイヴィスは内心では不安を感じていますが、とにかくワフィ・アル・シレー(Wafi Al Sirree)という地名の渓谷を防御するという任務を遂行しなければなりません。

入手した情報によれば、すでに敵の機械化部隊がこちらに接近しつつあるようです。デイヴィスは急ぎ中隊に応援を要請しますが、結果は期待外れに終わります。デイヴィスは自分が指揮する歩兵小隊で敵の戦車部隊に対して防御戦闘を遂行することを決断しますが、その防御陣地をどこに構築するかをめぐってデイヴィスは部下と口論してしまいます。

小説形式で物語は展開しますが、著者は戦場となる地形の特徴や小隊が使用する装備,、例えば個人携帯対戦車弾といった一般人に馴染みがない装備の特性についても補足で解説しています。そのため、読者は十分な準備を整えた上で3章以降の問題に取り組むことができるでしょう。

状況は刻々と変化していくため、読者はデイヴィスの立場で部隊の行動を決めなければなりません。時として著者は読者にダイスを振ることを要求します(ちなみに6面ダイスが2個必要になります)。次第に状況が複雑になってくると、次の展開を予測することはできなくなってきます。

本書のみどころ

主人公は敵の機械化部隊に対してこの渓谷を防御する任務を与えられます。使用する装備はアメリカ陸軍で使用されているものと同じであり、M16A2小銃、M60機関銃、T4個人携帯対戦車弾、手榴弾、M18A1対人地雷、M15対戦車地雷など、多種多様です。

歩兵小隊がどのような組織構造で編成されているのか、戦術を考える際に使用される用語にどのようなものがあるのかも解説されており、また物語の途中で挿入される軍事学者たちの箴言も参考になるものばかりです。

これは純粋に教育的な目的で書かれた著作であり、研究書ではありませんが、内容は決して軽薄なものではありません。与えられた物語を読むのではなく、積極的に問題を解決しようと知恵を巡らせる読者に本書を推奨します。

この著作は1995年に出版されましたが、2019年に電子書籍化されました。頻繁にページをめくらなければ読み進めることができないので、これから読もうとする方は電子書籍版を入手することを推奨します。

文献案内

小説や回顧録の形式で小部隊戦術を学べる本は他にもいろいろと書かれていますが、その多くは英語で書かれたものです。ここでは日本語で読めるものを2冊紹介しておきます。