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弾道ミサイル(ballistic missile)とは、放物線を描きながら長距離を飛翔する特性を有するミサイルの総称である。
弾道ミサイルは一般に射程を基準として以下の4種類に分類される。
短距離弾道ミサイル(short-range ballistic missile, SRBM)射程480km(300mi)未満
中距離弾道ミサイル(medium-range ballistic missile, MRBM)射程480kmから965km(600mi)未満
準中距離弾道ミサイル(intermediate-range ballistic missile, IRBM)射程965kmから5310km(3300mi)未満
大陸間弾道ミサイル(intercontinental ballistic missile, ICBM)射程5310km(3300mi)以上
上述した分類以外にも、地上配備型、潜水艦発射型、空中発射型などに分類することが可能である。共通の特性としては、弾道ミサイルはその名の通り弾道、つまり地表面に対して弧を描くように飛翔することが挙げられる。
弾道ミサイルの弾道は「ブースト段階」から始まり、目標に向けて移動する「ミッドコース段階」を経て、目標に向けて落下する「ターミナル段階」に分けられる。ブースト段階ではロケットで打ち上げ、必要な加速を得る。一定の加速度が得られたならば、内部に搭載された加速度計などの装置によってそれを検知し、ロケットの噴射を中止する。ミッドコース段階に入った弾道ミサイルは地球の引力によって絶えずミサイルが引き付けられる状態にあるため、上昇運動は弾道の頂点に達した後で下降運動へ移行していく。最後のターミナル段階において、弾道ミサイルは目標に向けて落下し始め、その際に大気圏内に再突入し、目標に到達する。このターミナル段階は再突入段階とも呼ばれている。
以上が弾道ミサイルの基本的な挙動だが、弾道ミサイルの種類によって、異なる弾道特性をとるものもある。例えば、多目標弾頭(multiple independent re-entry vehicle)を搭載した弾道ミサイルの場合、ブースト段階とミッドコース段階の間でそれぞれの弾頭を異なる弾道をとるように射出する段階が挿入される。
歴史上、初めて実戦に使用された弾道ミサイルはドイツ軍のV-2という名称のロケットであり、第二次世界大戦の最中にロンドンに対して使用された。その射程は240kmから370kmほどであり、現代の基準で見れば短距離弾道ミサイルに分類される。1945年の終戦後、この技術はアメリカとソ連の両国に移転され、双方が研究開発を推進した結果、核弾頭を運搬する手段と位置付けられ、1950年代に性能が大きく向上した。
1953年にアメリカ陸軍が試射を実施したレッドストーン(Redstone)は最初期の短距離弾道ミサイルであり、射程は320kmほどだったが、1958年にアメリカ空軍が試射した大陸間弾道ミサイルのアトラス(Atlas)は射程が14000kmにも達した。その後、弾道ミサイルの開発競争が起こり、米ソ両国でその保有数が増加したが、核戦争のリスクを高める恐れがある問題が認識され、軍備管理を通じて弾道ミサイルの保有数を制限することが試みられた。
1987年に発効した中距離核戦力全廃条約(Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty)はその努力が実を結んだ歴史的成果の一つであり、500kmから5500kmまでの射程を持つ弾道ミサイルと巡航ミサイルを破棄することを定めた。しかし、2010年代にロシア軍が巡航ミサイルの研究開発に乗り出したことをきっかけとしてアメリカが条約を破棄し、2019年に失効した。現在でも核兵器の運搬手段として弾道ミサイルが持つ軍事的な重要性は揺るぎないものであり続けている。
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