戦いの原則

戦いの原則

戦いの原則(principles of war)とは、戦争を遂行する上で指揮官が守るべき原則を集めたもの。目標の明確化、指揮の統一、主導権の確保、戦闘力の集中、奇襲の成功、戦機を捉えた機動、戦力の節約、計画の簡明、厳重な警戒が挙げられる。時代や地域によって内容に違いがある場合もある。

現在、最も一般的に知られている戦いの原則は、イギリスのJ.F.C.フラーが提唱した原則を基本にしたものである。それは(1)目標、(2)攻勢、(3)集中、(4)経済、(5)機動、(6)統一、(7)保全、(8)奇襲、(9)簡明の9個で構成されている。まず作戦の目標を終始一貫させるように設定すること(目標)、あらゆる戦力を統一した上で運用すること(統一)、敵に対して積極的、能動的に行動することが重要である(攻勢)。これらに加えて、決定的な戦果を収めるために、適時適所に戦力を集中発揮し、我よりも彼の方が劣勢になるように戦うことが目指される(集中)。この集中を実現するために必要なことが不要な戦力の分散を避けることであり(経済)、また部隊の移動や運動による態勢の変更である(機動)。しかし、戦争においては不確実性がつきものであるため、突発的な事態が発生した場合に即応できる準備を整えておくことも同時にしなければならない(保全)。もし我が方が敵の予期しない場所、時間、方法で攻撃することができるならば、敵はそれに即応できず、甚大な被害を受けることになるため、そのような可能性があれば奇襲によって最大限に活用しなければならない(奇襲)。最後に、あまりにも複雑な作戦はかえって混乱を招くために、可能な限りシンプルは行動方針をとることも指揮官として心がけていなければならないことである(簡明)。

こうしたフラーの説が広まる前から、軍事学において戦争術の原理原則が存在することは繰り返し議論されてきた。例えば、19世紀のジョミニは『戦争術概論』で戦争術の根本原則を列挙し、その中で我の背後連絡線を守りながら、敵の背後連絡線を断つことを原則に位置付けた。これはナポレオンが『軍事箴言集』で述べた戦争術の原則に依拠したものだが、同様の原則はマイゼロアフリードリヒ二世モンテクッコリなどの著作でも繰り返されてきた。フラーは自らの説の根拠としてナポレオンの『軍事箴言集』の内容に依拠しているが、その意義は新しい発見を成し遂げたというよりも、従来まで曖昧かつ不明確だった戦いの原則を系統的に整理したことに求められる(学説紹介 戦いの原則(principles of war)はどのように作られたのか―フラーの学説を中心に―を参照)。また、フラーの伝統的な学悦をさらに拡張する意図から、新たな原則を追加しようとする試みもある。その多くは試論の域を出ていないが、例えばアメリカ軍の統合参謀本部が刊行している統合作戦の教範では、「統合作戦の原則」として先に挙げた原則の他に、武力行使に伴う非戦闘員への被害の抑制(restraint)、戦略的目的を達成する上で必要な時間だけ持ち堪える忍耐(perseverance)、そして武力行使の根拠となる法的、道徳的条件を満たす正当性(legitimacy)の3点が追加されている(Joint Pubplication 3-0: Joint Operations, Appendix A: Principles of Joint Operations)。

参考文献

戦いの原則に関する研究で最も基本的な文献の一つがアルガー(John Alger)の著作『勝利への探求(The Quest for Victory)』(1982)である。この著作を読めば、戦いの原則がどのような歴史的経緯のもとで形作られてきたのかを理解することができる。

  • Alger, John I. 1982. The Quest for Victory: The History of the Principles of War. Greenwood Press.

最近の研究動向として指摘できることは、軍事技術の変化や非正規戦が多発する中で、戦いの原則を守ることが必ずしも望ましくないことが認識されるようになっている。この問題に関してはまだ定説が確立されているとは言えない。