ポリュアイノス

ポリュアイノス

ポリュアイノス(Polyaeni 2世紀?)はローマ在住の法廷弁論家であり、『戦術書』(160年代前半)の著者として知られている。

自身の説明によればマケドニアの出身だが、詳しい家系、経歴、職業などがはっきりしない。著作『戦術書』1巻の序文に記されている内容から、同書がローマ皇帝マルクス・アウレリウス・アントニウス(在位161-180)とルキウス・ウェルス(在位161-169)に献上されたものであることが確認できる。また、162年にウェルスがパルティアとの戦争のために自ら軍を率いて出陣したことから、少なくとも1巻については161年に献上され、少なくとも現存する8巻までは163年に完成していたと推定される。『戦術書』は古代の戦例集であり、教育的な目的のために書かれたものであるが、取り上げられた戦例の多くは今日の軍事学の立場から見て、あまりにも逸話的なものが多い。また選ばれている戦例の特徴を調べると、優れた戦略や戦術の事例というよりも、優れた政略や謀略の事例が少なくない。ポリュアイノスはトゥキディデスやカエサルなどの著作に依拠しているため、実証性、正確性に乏しいところが散見される。それにもかかわらず、ポリュアイノスは伝記的な読物の優れた書き手であり、ローマ人が戦争術というものをどのように考えていたのかを知る上で価値がある。また、ビザンツ帝国においては『戦術書』の抜粋集が編まれたことからも推測できるように、古代から中世にかけて軍事的価値が備わっていると考えられていた。『戦術書』には優れた翻訳があり、日本語で読むことができる。

  • ポリュアイノス『叢書アレクサンドリア図書館 第6巻 戦術書』戸部純一訳、国文社、1999年