マーシャル

マーシャル

アンドリュー・マーシャル(Andrew Marshall, 1921年9月13日 - 現在)はアメリカのシンクタンク研究者。軍事情勢の長期予測で用いられる方法論の一つネット・アセスメント(net assessment)を確立したことで知られている。

経歴

ミシガン州のデトロイト出身。労働者の家に生まれたが、優秀な成績のおかげで奨学金を得て学業を続けることができた。1940年の兵役検査で心雑音が見つかり、従軍はしていない。1940年にデトロイト大学に短期間在籍したが1年で退学し、自動車部品を製造する企業マレー・ボディ・カンパニーに就職した。戦時中の1943年から学業再開に向けてウェイン州立大学に通い始め、終戦した1945年にシカゴ大学の入学試験で大学院に特別に入学が認められ、経済学を専攻した。シカゴ大学に設置された原子力研究所では非常勤職員としてサイクロトンの改造を手伝い、計量経済学のモデルが導く経済予測が実際のデータとどの程度一致しているのかを検証する修士論文を書いた。博士号取得の資金を得るため、1949年にカリフォルニア州に設立されるシンクタンクのランド研究所への就職したことをきっかけにして軍事学への研究に関わるようになった。

当時、ランド研究所では核兵器の運用に関する研究が進められ、マーシャルはチャールズ・ヒッチ、ハーマン・カーンなどと知り合い、また研究員としてさまざまなプロジェクトに参加して経験を積んだ。マーシャルはランド研究所内部に設置された戦略目標委員会(Strategic Objective Committee)に参加を許され、そこでバーナード・ブローディなどと共に核戦略の研究に従事する機会を得た。アルバート・ウォルステッター、ジェームズ・シュレシンジャーとも親しくなった。マーシャルは次第に当時のアメリカ軍の情勢分析で用いられる方法論に疑問を抱くようになり、1966年9月のアメリカ政治学会で「軍事力の評価問題(Problems of Estimating Military Power)」と題する報告を行い、その内容は後に刊行された。

1970年に書き上げられ、1972年にランド研究所から公表された『ソ連との長期的競争:戦略分析の枠組み(Long-Term Competiton with Soviets)』は長期的な観点から米ソ関係を支配する勢力関係と戦略を研究するための方法を提案するものであり、後のネット・アセスメントに拡張される構想が含まれていた。その特徴は装備体系や軍事教義などを比較することによって、敵対する二国間の包括的な勢力関係を分析することにあり、従来の量的優劣を重視する分析手法の限界を乗り越えようとするものだった。1972年に大統領選挙で勝利を収めたニクソン政権の下で国防長官に就任したシュレシンジャーはマーシャルを取り立て、1973年に国防総省に新設されたネット・アセスメント室の室長に就任させた。これ以降、マーシャルは国防総省で米ソ間の軍事バランスを分析する研究プロジェクトの指揮をとることになり、オバマ政権に至るまでの何年にもわたって室長の地位を占め、2015年1月に退職した。

業績

マーシャルの著作は翻訳されていないが、オンライン版があるため入手すること自体は容易である。