クラウゼヴィッツ『戦争術の大原則』

クラウゼヴィッツ『戦争術の大原則』

カール・フォン・クラウゼヴィッツ『戦争術の大原則:皇太子殿下への進講の補足として』Kindle版、武内和人訳、国家政策研究会、2018年

概要

プロイセンの軍人、カール・フォン・クラウゼヴィッツが1812年に教え子の皇太子に送った論文。軍事学の 入門者に向けて戦争術の基本原則が述べられているだけでなく、指揮官としての心構えや考え方についても説かれている。その後の『戦争論』に通じるクラウゼヴィッツの基本思想が示されている。戦略だけでなく、戦術に関する解説も多く、軍事学を学び始めたばかりだった皇太子のために、攻撃と防御の関係、戦闘陣を組んだ部隊の運用、地形の利用方法について基礎から説明がなされている。

ナポレオン戦争でフランスに敗北したプロイセンで、クラウゼヴィッツは軍制改革を推進するため教育と研究に精力的に取り組むようになる。1810年から陸軍大学校で「小戦争」の授業を教えるようになったのと並行して、皇太子(後のフリードリヒ・ヴィルヘルム四世)に軍事学を教えることになった。しかし、1812年にフランスがロシア遠征を決めた際に、プロイセンがフランスに援軍を出すことを決めたことをきっかけとして、クラウゼヴィッツは仲間と共にロシア軍に身を投じることを決める。クラウゼヴィッツは皇太子への授業を途中で中断することを余儀なくされたため、自分の授業を総括するために本書を記して送付した。後の『戦争論』で結実するクラウゼヴィッツの思想の原型が盛り込まれている軍事学史において重要な業績と位置付けることができる。

抜粋

  • 「そもそも軍事理論の研究で我々が目指していることは、部隊の規模で敵より優位を占める方法、しかも決定的に重要な地点において優位を占める方法を明らかにすることです」
  • 「軍事理論を踏まえるならば、最も決定的な選択肢、つまり最も大胆な行動こそ選ぶべきだと分かります。なぜなら、大胆さこそ戦争の本質において最も必要な資質だからです」
  • 「我が方から敵に攻撃を加えているなら話は別ですが、基本的に味方の軍は、いつでも敵から攻撃を受ける恐れがありますので、どのような状況でも防御の態勢を整えておき、可能な限り掩護されていなければなりません」
  • 「これらを総合すれば、現在の戦争術において勝利を求める上で非常に重要な原則が導かれます。それは「戦力を集中し、断固とした決断で、一つの決定的な目標を達成せよ」という原則です」
  • 「防御の場合と同じように、全体から見て敵軍の致命的な弱点である一部を攻撃目標としなければなりません」
  • 「まとめると、戦略的防御は戦略的攻撃よりも強力な方法ではありますが、はじめに大きな成果を獲得するためにだけ用いなければならないことに注意すべきです。もしこれらの成果を勝ち取ったものの、直ちに講和を結ぶことができないなら、攻撃によらないと新たな成果を得ることはできません」
  • 「現実の戦闘で目撃する視覚的な印象は、事前によく考察したことで得られる印象よりも壮絶です。しかし、このような印象は、物事の表面を捉えた現象でしかありません。すでに申し上げたように、それが物事の本質を示すことは、ほとんどないのです」