外交

外交

外交(diplomacy)は、説得、妥協、強制などの交渉によって国際紛争を未然に防止し、または解決する活動である。

通常、武力行使や国際司法などと明確に区別される活動だが、用語として曖昧に使われることも多い。国際関係を一般的に表現するために用いられることもあれば、個別の交渉を指して使われることもある。軍事学においては、核抑止や軍備管理などの問題で戦略研究の対象として扱われる。

歴史

外交という用語は、まず交渉によって国際紛争を解決する方法を意味しているが、外交官の業務全般を意味することもある。国際政治の歴史において、外交は古くから武力に代わる政策手段の一つとされており、語源はギリシア語で証書を意味する言葉「ディプロマ(diploma)」に由来する。古代から中世にかけて重要な外交交渉を担った使節も、外国語が堪能であり、国際情勢に精通した人物が選ばれていたが、彼らは職業外交官ではなかった。近代的な意味で外交が始まったのは、15世紀以降のことだと考えられている。

15世紀にヴェネツィアがヨーロッパ各地に外交機関を開設し、脅威を及ぼしてきたオスマン帝国に対抗するための同盟を結成しようとした。この試みは失敗したものの、16世紀までにヨーロッパ列強の君主は他国の情報を入手し、円滑に交渉を進めるために外交官を派遣する重要性を認識し始めた。また、17世紀のフランスではリシュリュー枢機卿の下で常設の外務省が設置され、交渉、諜報、工作などの領域で成果を収めた。このことによって、対外政策を遂行する手段として外国に常駐する外交使節団が軍隊に勝るとも劣らない意義を持つと理解された。

19世紀にウィーン会議で外交に関する諸制度の世界的標準が定まったことで、国別で異なっていた階級や規則が標準化された。その後、世界経済の一体化を背景に外交はその重要性を増していったが、第一次世界大戦を契機として会議外交の活用や外交の民主的な統制を強化する動きが見られた。20世紀に国際連盟、国際連合のような国際機構が設立されたことによって、外交的活動はより常続的、より広範囲に実施されるようになっている。現代においては経済的連携、文化的交流を通じた民間領域の活動も外交として位置づける研究もある。

主要研究

外交の研究で古典的な業績としては、まずフランソワ・ド・カリエールの著作『外交談判論』が挙げられる。カリエールは17世紀から18世紀のフランスで活躍した外交官であり、若手の外交官のための教範を書き記している。外交官のための教科書は19世紀から20世紀に活躍したイギリスの外交官アーネスト・サトウによっても『外交実務入門』として出版されており、同時代の外交官から高い評価を得ている。

これらの著作に対してハロルド・ニコルソンの著作『外交』は国民に外交の意義を解説したものである。第一次世界大戦の終結後に外交を政府の厳格な統制に置き、その実態を透明化しようとする動きがあったが、ニコルソンは外交交渉の実務の観点から見てそれに反対し、それが外交交渉の遂行を難しくすると指摘した。同じくイギリスの外交官エドワード・ハレット・カーの著作は戦争を防止するために軍備撤廃や国際機構の強化を訴えるべきだという世論に反対し、それらが外交上の観点から見て有効ではないことを指摘した上で、その後の国際政治学の基礎となる考え方であるリアリズムを打ち出した。

  • カリエール『外交談判法』坂野正高訳、岩波書店、1978年
  • Satow, E. 1917. A Guide to Diplomatic Practice, London.(数多くの改訂版が出ている。Roberts, I. 2016. Satow's Diplomatic Practice, 6th edition. Oxford University Press.が最新版である)
  • Nicolson, Harold G. 1963(1939). Diplomacy, 3rd edn. Oxford: Oxford University Press.(邦訳、ニコルソン『外交』斎藤真・深谷満雄訳、東京大学出版会、1968年)
  • Carr, E. H. 1946(1939). The Twinty Years' Crisis 1919-1939: An Introduction to the Study of International Relations, 2nd ed. London: Macmillan.(邦訳、カー『危機の二十年』原彬久訳、岩波書店、2011年)