モデル

モデル

モデル(model)とは、ある現実の世界における現象を構造的に表現したものである。最も基本的な分類では物理モデルと記号モデルに分けられ、さらに記号モデルは言語モデルと数式モデルに分けられる。しかし、オペレーションズ・リサーチシミュレーションの文脈では数式モデルのことを意味する場合が多い。ここでは軍事学において重要な戦闘モデルを中心に説明する。

モデル化の始まり

軍事学者はさまざまな条件の下で起こる軍事行動の結果を、正確かつ容易に予測するために、どのようなモデルを構築すべきかを検討してきた。特に戦闘のモデル化は重要な課題として位置付けられ、さまざまな研究が行われてきた。数式を使ってモデル化を行う技術がなかった時代には、砂版や模型を使った物理モデルが使われていたが、近代科学の発達によって抽象的な記号モデルが広く使われるようになったことを踏まえて、軍事学においてもその方法を用いる者が出てきた。19世紀にプロイセンの陸軍軍人クラウゼヴィッツは戦場の環境、使用する武器、部隊の士気などが互いに等しい時に戦闘の結果を左右するのは数的優劣だと論じているが、これは最も基礎的な戦闘モデルを定式化したものとして歴史的な意義がある。

モデルの成熟

20世紀の初頭にはランチェスターが戦闘で生じる損害には彼我の戦力の規模と一定の法則性があると考え、その関係を定式化した。この戦闘モデルはその後の研究でさまざまな形で拡張されたが、その成果はテイラー(Taylor)の著作『戦争のランチェスター・モデル(Lanchester Models of Warfare)』(1983)でまとめられている。しかしデュピュイ(Trevor Dupuy)は著作『数、予測、戦争(Numbers, Predictions & War)』(1985)で、部隊の規模や武器の性能だけで戦闘の結果を説明するのではなく、士気や訓練などの要因を幅広く考慮した上で解析する定量化判定モデルを提唱し、学界で論争を巻き起こした。また1990年代に戦闘モデルの実証的妥当性を検証する研究が進展し、ハートレーは『戦闘効果を予測する(Predicting Combat Effects)』(1991)でランチェスター方程式の妥当性に疑問を投げかけ、異なる方法で戦闘の損害を記述することを提案した。

モデルの多様化

現在、軍事学においては特定の目的を達成するために、多種多様なモデルが構築されている。それぞれは戦闘の特定の側面を抽出して単純化、構造化したものであり、上述したランチェスター方程式を拡張したものもあれば、そうではないものもある。そのすべてをここに記すことはできないが、ここでは代表的なモデルの分類基準を示す。

  • 軍種による分類:陸軍、海軍、空軍、統合部隊
  • 範囲による分類:世界規模、地域規模、局地規模
  • 単位による分類:戦略レベル(政治・軍事)、作戦レベル、戦術レベル
  • 形態による分類:核戦争、通常戦争、対反乱戦、対テロ作戦、生物化学戦
  • 目的による分類:教育訓練、武器装備の選定、戦力組成の決定、作戦計画の検証
  • 次元による分類:一次元的空間(ピストン・モデル)、二次元的空間(緯度経度モデルあるい格子モデル)、三次元的空間(高低差の概念を含む立体モデル)
  • 確率による分類:決定論的モデル、確率論的モデル

どのようなモデルが適切なのかという問いに対する答えは、使用者の目的によって左右される。モデルは正確であればよいというわけではなく、あまりにも精密だとしても計算量を抑えることができるのであれば、より単純なモデルの方が優れていることもある。そのため、一概にどのモデルを選ぶべきだと述べることはできないが、戦略・戦術の最適化を図る処方箋的モデルの使用には慎重にならなければならないこと、望ましい結果を得るために膨大なパラメータを含む大型のモデルを恣意的に操作してはならないことは基本的な原則として指摘できる。

関連項目

参考文献

  • Tolk, A. 2012. Engineering Principles of Combat Modeling and Distributed Simulation. Wiley.
  • Dupuy, T. N. 1986. Numbers, Predictions & War. HERO Books.
  • Hartley, D. S., III. 1991. Predicting Combat Effects. Martin Marietta Energy Systems.(入手困難)
  • Taylor, J. G. 1983. Lanchester Models of Warfare, Vols. 2. Military Applications Section, ORSA.(入手困難)