トゥキュディデス

トゥキュディデス

トゥキュディデス(前460年?―前400年?)はアテナイの歴史家であり、『ペロポネソス戦争の歴史』(以下、『歴史』)の著者として知られている。

経歴

トラキア地方の有力者だったオロロスの息子であり、ペロポネソス戦争が勃発した時には兵士として従軍した。前424年には一軍の指揮官に選出され、アテナイの植民都市アムピポリスを救援するために派遣された。しかし、いち早く駆け付けたスパルタ軍がアムピポリスを攻略したため、トゥキディデスは責任を取って公職から追放され、アテナイを離れた。トラキアでは研究を行っていたと見られるが、詳細なことはよく分かっていない。20年間の追放が解かれた前404年頃にはアテナイに戻っていたとも推測されるが、没年を明確に特定することはできない。

思想

歴史学の立場から見たトゥキュディデスは、神話的、伝説的な事柄を歴史から排し、科学的な事実に即して記述することを重んじた歴史家である。しかし、軍事学の立場から見たトゥキディデスには別の一面があり、政治と軍事という二つの異なる視点を組み合わせて戦争を研究した最初の分析家でもあった。トゥキディデスの記述の特徴は、政治家が公の場で語った演説と、実際の軍事行動の推移が交互に取り上げられていることにある。

政治家の演説の部分では、さまざまな思惑を持った関係者が、それぞれの弁論術を駆使して敵を非難し、味方を称賛し、中立の人々を説得しようと駆け引きを繰り広げる様子が描かれている。軍事行動の部分では、状況の推移が詳細に描き出されており、戦域の各地に配備された軍隊が、誰の指揮の下で、どのような意図で、どのような行動をとったのか、それらがもたらした結果はどのようなものだったのかが説明されている。

政治と軍事の視点を組み合わせることにより、戦争を戦闘の集合としてではなく、それ自体が独自の性質を持った全体的事象と捉えられている。トゥキディデスの著作は、史料としての価値を持つだけでなく、軍事史学という研究領域の礎を築いたものとして高い評価を受けている。

著作

トゥキュディデスの著作『戦史』は継続的に訳書が出されている。いずれも優れた訳書だが、初めて読む場合は小西訳を推薦したい。

  • 青木厳『トゥーキュディデース、歴史』全2巻、東京、1942-3年(本邦初訳、入手困難)
  • 久保正彰『トゥーキュディデース、戦史』全3巻、岩波書店、1966-7年(1997年新装)
  • 小西晴雄『トゥーキュディデース、歴史』 筑摩書房、1971年(2013年新版)
  • 藤縄謙三、城江良和訳『トゥキュディデス、歴史』京都大学学術出版会、2000-3年

英訳についてはオンラインで読むこともできる。以下の外部リンクを参照されたい。

原文の外部リンクは以下の通り。