マキアヴェリ

マキアヴェリ

ニッコロ・マキアヴェリ(Niccolò Machiavelli、1469年5月3日 - 1527年6月21日)はイタリア(フィレンツェ)の官吏、著述家である。

経歴

ニッコロ・マキアヴェリはトスカーナの地方貴族であり行政書記官だった父親ベルナルド・マキアヴェリとトスカーナの貴族の血を引く母親バルトロメア・デ・ネーリの間の長男としてフィレンツェに生まれた。(マキアヴェリ家はその後2人の娘と1人の息子に恵まれている)

幼少期の記録はほとんどなく、父の蔵書を利用しながらラテン語とローマの古典の勉学に励んでいたことが伝わっているに過ぎない。29歳になったマキアヴェリはまず父親と同じフィレンツェ政庁で書記官の仕事を得ることになり、内政の仕事を担当していたが、やがて外交の仕事も引き受けるようになる。

1499年にはフォルリとイモラの盟主であるカテリーナ・スフォルツァと会談を持ち、フィレンツェに傭兵を提供する契約を継続するための外交交渉に臨んだ。マキアヴェリはこの交渉で相手との友好関係を保ちながら傭兵料の価格交渉も行っている。また1500年にはフランスのルイ12世との外交交渉のために大使デラ・カーサの補佐官としてフランスを訪れてピサ戦争の問題を検討している。

1502年にはチェーザレ・ボルジアとの直接交渉も行っており、チェーザレの政治的力量を実際に知ることができた。1505年マキアヴェリはフィレンツェ軍がピサ戦争で苦戦している中で軍制改革を主張し、国家の下に市民軍の創設を実現させた。この時期に台頭してきたメディチ家はヴェネツィアを攻略してイタリアの支配権をフランスから奪回しようと試みた。フランスと友好関係にあるフィレンツェ軍はメディチ家の軍勢と対決するが敗北し、フィレンツェでは政権が転覆されてマキアヴェリも免職となった。さらに反メディチ活動の容疑で投獄され、釈放されるもフィレンツェから追放となる。

追放されてからマキアヴェリは文筆活動に専念し、主要な著作を残してメディチ家のための著作の記している。1521年に入るとイタリア戦争が勃発し、マキアヴェリはフィレンツェの城壁防衛委員長に命じられた。しかし皇帝軍がローマを占領するとフィレンツェで反メディチ運動が高まり、メディチ政権が転覆されて共和政に移行したため、マキアヴェリはこの時に再び罷免される。1527年に病により死去した。

思想

マキアヴェリの軍事思想の特徴として挙げられるのは、その後の軍事学の発展にとって先駆的な業績を残し、戦争における戦闘の重要性を主張したことである。16世紀のヨーロッパにおいて軍事学はまだ学問として十分に認知されていたわけではなかったが、マキアヴェリは特に古代ローマ史の研究を通じて、戦争術には時代を超えた普遍的、一般的な原理原則が存在するという立場に立つことで、軍事学の出発点を古代の戦争術に求めた。

軍事学におけるマキアヴェリの著作『戦争術』は、ローマ軍の制度や運用の研究に依拠したものであるが、歴史学的な関心に導かれた研究ではなく、当時のフィレンツェが直面する国防上の問題を解決するためにローマ軍のモデルを発展させることを目指したものである。その内容によると、マキアヴェリは歩兵、特にローマ式の重歩兵を軍隊の主体とした上で、戦術的には正面に対して縦長を大きくとった戦闘陣形を採用するように主張した。このような議論は重騎兵を中核とした当時の軍隊のあり方に対する批判としても位置付けられる。

さらにマキアヴェリは戦略的な観点から見て、戦争が短気で決着することが望ましいと考え、それは戦闘で決定的な勝利を収めることによってのみ可能だと主張していた(論文紹介 軍事学者マキアヴェリの業績は何か)。そのため、戦場に展開した重歩兵は敵が劣勢のように見える場合であっても、十分に戦闘力を発揮し、これを徹底的に打撃することで戦果を確実なものにしなければならない。戦闘に勝利することによって戦争を終わらせることが、軍隊の基本的な任務と考えられていた。こうした任務を遂行する上で金で雇われる傭兵を用いることは好ましいことではないため、愛国的な精神を持つ自国の兵士で軍隊を編成することが国防の要とされていた(国家の防衛を外国軍に委ねるべきではないと警告したマキアヴェッリ)。

著作

軍事学において重要な業績は『戦争術』である。はっきりした刊行の時期は分かっていないが、1520年代に初めて出版されたと考えられており、1521年8月16日にフィレンツェで初めて出版されたのではないかという推定も出されている。以下に訳書を紹介しておく。

  • ニッコロ・マキアヴェッリ『戦争の技術』 服部文彦訳、筑摩書房、2012年
  • ニッコロ・マキアヴェリ『マキアヴェリ戦術論』浜田幸策訳、原書房、2010年

ちなみに、マキアヴェリの著作は全集としてまとめられており、上述した『戦争術』については第1巻に収録されている。本格的な研究にも使用が可能な良質な翻訳であり、ここに紹介しておく。

  • ニッコロ・マキァヴェッリ『マキァヴェッリ全集』第1巻、池田廉ほか訳、筑摩書房、1998年