砲兵

砲兵

砲兵(artillery)とは、火砲やロケットを運用し、火力戦闘を遂行する陸軍の戦闘職種、あるいはその部隊や人員のことをいう。歴史的にさまざまな分類方法が使われており、想定する射撃陣地の場所や射撃目標の種類によって野戦砲兵、要塞砲兵、攻城砲兵と分類することもあれば、使用する火砲の性能や種類に応じて山砲兵、野砲兵、重砲兵と分類する場合もあり、さらには射撃目標が地上目標か、空中目標かによって野戦砲兵と高射砲兵を分類する場合もある。分類の方法は地域は時代によってかなり異なっており、それぞれ編制や運用にかなりの質的な違いがあるため、研究の際には注意を要する。

artilleryという言葉は、13世紀以前においては必ずしも火砲のことを意味せず、一般に攻城戦のための装備を意味していた。しかし、14世紀に入ってヨーロッパ大陸で火砲が使用され始めると、次第に攻城砲が重要な役割を果たすようになり、次第に火砲の意味合いが強まっていったと思われる。砲兵が独立的な職種部隊として位置づけられた例は15世紀のフランス軍で確認することができる。16世紀には弾道学の研究も本格的に始まっており、砲兵射撃の関連技術が次第に確立されていった。陸軍史における近代砲兵の創始者としては17世紀に活躍したスウェーデン王グスタフ二世と見なすのが定説である。グスタフ二世は野戦砲兵を戦場で集中運用するため、火砲を軽量化、標準化するだけでなく、それまで民間人の身分で戦闘に従事していた砲手を正規の軍人に取り立て、歩兵や砲兵と同列に扱った。

18世紀から19世紀にかけて砲兵に関連する技術や戦術は科学技術の発展と共に進化を続けており、その中には重要なものもあったが、(フリードリヒ二世の騎砲兵、ナポレオン一世の集中運用など)20世紀初頭の第一次世界大戦が砲兵に与えた影響は特に大きなものだった。それまでの砲兵は目標を視認しながら照準する直接照準射撃を実施していた。しかし、火砲の射程が延伸されたため、視程外の目標に対する間接照準射撃を実施するようになった。さらに、射撃で発生する音響を探知し、そのデータを用いて敵の砲兵陣地を特定し、反撃のための砲撃を加える対砲兵戦もこの戦争で始まっている。さらに、歩兵の攻撃を支援するための縦深にわたる準備射撃など、さまざまな砲兵戦術が考案された。

第二次世界大戦では航空機と戦車が導入されたが、アメリカ軍やソ連軍は砲兵の戦術を発展させるための努力を続けており、特にソ連軍は砲兵火力に基礎を置くドクトリンを発展させながらドイツ軍と戦った。そのため、冷戦以降にソ連軍のドクトリンを採用した東側諸国では陸上戦力における砲兵の比率が高い場合が多く見られた。現代でも砲兵は多くの国で歩兵や機甲に並ぶ重要な戦闘職種と位置付けられており、火砲の自走化、自動化、コンピュータ化が進められるだけでなく、ネットワークを通じた射撃諸元の共有、無人航空機による観測など新たな研究課題が取り組まれている。

参考文献